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名古屋地方裁判所 昭和29年(行)24号 判決

名古屋市中村区則武町五丁目七十四番地

原告

飯田政見

右訴訟代理人弁護士

永井正恒

名古屋市名古屋国税局内

被告

名古屋国税局長

磯田好祐

右指定代理人法務局訟務部長

宇佐美初男

前同

法務事務官 大野謙治

加藤利一

前同

大蔵事務官 溝口一夫

名古屋市西税務署内

被告

名古屋西税務署長

横沢仁

右指定代理人法務局訟務部長

宇佐美初男

前同

法務事務官 大野謙治

加藤利一

前同

大蔵事務官 溝口一夫

伊藤牧造

安藤行雄

右当事者間の昭和二十九年(行)第二四号相続税審査決定取消請求事件につき当裁判所は左のとおり判決する。

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告名古屋国税局長が原告に対し昭和二十九年六月二十九日なした昭和二十六年分相続税審査決定は之を取消す

被告名古屋西税務署長が原告に対し昭和二十八年十二月十八日なした相続税の更正決定は之を取消す、訴訟費用は被告等の負担とする との判決を求め、

その請求の原因として

(一)  原告は飯田辰次郎の四男であるところ辰次郎が昭和二十六年十二月三十日死亡したので原告はじめ訴外飯田すず、飯田寿郎、寺嶋辰雄、寺嶋明子、寺嶋洋明、寺嶋芳子は共同相続人となつた。

(二)  しかして共同相続人等は遺産分割につき協議の結果、別紙目録記載の不動産については原告が全部之が所有権を取得するがその代償として原告は他の共同相続人に対しその相続分に応ずる価額の金員を支払うこととし飯田すずに対しては金百二十二万三千二十一円、飯田寿郎に対しては金六十万二千六百十七円、寺嶋辰雄に対しては金二十六万七千五十円、寺嶋明子、寺嶋洋明及び寺嶋芳子に対しては各金二十六万七千四十円を支払うことに定めた。

(三)  よつて原告は別紙目録記載の不動産につき昭和二十六年十二月三十日相続に因る所有権取得の登記を経由したのであるが右の如き対価を負担したので右不動産に関する原告の相続した価格は右不動産の相続当時の価格から右対価合計金二百八十九万三千八百八円を控除した残額に相当する分である。

(四)  しかるに被告西税務署長は原告に対し右不動産の価格全部を課税価格として昭和二十八年十二月十八日相続税の更正決定をした。そこで原告は再調査の請求をしたところ同被告は之を棄却したので原告は更に昭和二十九年三月二日審査請求をしたところ被告名古屋国税局長は同年六月二十九日名局直資一―二三六を以つて審査の請求を棄却する旨の決定をなし原告は同決定書を翌三十日受領した。

(五)  しかしながら右審査決定は不服であり又もとより右更正決定は不服であるから之ら決定の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告等の答弁に対し被告等主張の如く原告が被告名古屋西税務署長に相続税概算申告書及び修正概算申告書を提出したこと、代襲相続人寺嶋等四人の者が相続放棄の申述をし受理されたこと、原告、訴外飯田すず及び同飯田寿郎の三名の間に被告等主張の如く遺産分割がなされて之が登記を経由したことになつていること及び被告等主張の如き公正証書を作成したことは之を認めるがその余の事実は否認する。右相続放棄及び遺産分割は原告外六名の共同相続人が遺産分割の方法として相続財産の大部分を原告に取得させる便宜上したものであつて右相続放棄及び遺産分割は真実に副わないものであり真実の遺産分割は原告の主張する如く前示公正証書の内容通りであると抗争し、

立証として甲第一号証を提出し証人林鍬三郎、寺嶋久蔵、山崎良三、飯田寿郎の各尋問を求め乙号各証の成立を認めた。

被告等指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中(一)の事実は認める、但し後述の如く寺嶋辰雄、同明子、同洋明、同芳子は相続を放棄した。(二)及び(三)の事実は全部認める。(四)の事実は否認する。

原告は父辰次郎死亡に因る相続人として昭和二十七年四月十八日被告名古屋税務署長に対し相続税法第二十七条(昭和二十七年法律第五五号、同二十八年法律第百六十六号の改正前)により昭和二十六年分相続税概算申告書―税額金二十四万二千三百七十円―を提出した。その後原告は右申告の税額に不足額があるとて昭和二十七年十月十四日同法第三十一条(同上)により修正概算申告書―税額金二十六万百二十円―を提出した。しかしながら右辰次郎の相続人は原告訴外飯田すず、同飯田寿郎の外に代襲相続人訴外寺嶋辰雄、同寺嶋明子、同寺嶋洋明、同寺嶋芳子の合計七名であつたところ右代襲相続人四名は昭和二十七年三月十七日名古屋家庭裁判所に右相続放棄の申述をなし同年四月四日受理されたこと及び原告、飯田すず及び飯田寿郎の共同相続人間に昭和二十七年五月五日協議上右辰次郎の遺産分割がなされ、

(一)  原告、飯田政見が相続した不動産

名古屋市中村区則武町五丁目七十三番

一、宅地 八十九坪二合七勺

同所七十四番

一、宅地 二百十四坪七合六勺

同所同番所在

家屋番号第五十一番

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  二十八坪八合

外二階 二十四坪九合

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  三十一坪七合

外二階 二十八坪四合

一、木造瓦葺平家建物置

建坪 八坪七合

同所同番所在

家屋番号第五十四番

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  七十八坪六合

外二階 六十九坪六合

同市同区則武町一丁目百一番所在

一、宅地 百十二坪四合八勺

同市同区亀島町四丁目十五番

一、宅地 二百七十坪六合九勺

同市同区同町四丁目十六番の一

一、宅地 百四十一坪一合二勺

同市同区則武町一丁目二十七番

一、宅地 百八十七坪六合八勺

(二)  訴外飯田すずが相続した不動産

同市西区牛島町五十一番

一、宅地 九十二坪七合七勺

同市中村区則武町二丁目三十四番

一、宅地 五十七坪四合

同市同区同町二丁目三十五番

一、宅地 三十一坪九合一勺

同市同区同町二丁目五十七番

一、宅地 三十八坪四合四勺

(三)  訴外飯田寿郎が相続した不動産

同市中村区則武町一丁目二十七番所在

家屋番号第三十三番の二

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  二十九坪七合

外二階 十八坪三合

と定められ登記を了していることが分明したので被告西税務署長は昭和二十八年十二月十八日原告の相続に因る課税価格を金四百二十五万六千八百六十三円税額金百七十三万二千八百五十円と更正し之に対する加算税金七万三千六百円と決定した次第である。

もつとも原告外六名の相続人は昭和二十八年八月二十八日税理士を代理人として原告主張の如き内容の公正証書(甲第一号証)を作成してもらつているが之は全く欺瞞的なものであることが明らかである。即ち

(イ)  前示寺嶋辰雄外三名が代襲相続放棄の申述をし受理されていること、

(ロ)  右代襲相続人四名の母が婚姻に際し多大の嫁入道具を調えられたと推測されるに拘らず、なお右四名の者が合計金百六万八千百七十円の多額な金を受けるということは承服し兼ねる事実であること、

(ハ)  原告、飯田すず及び飯田寿郎の共同相続人が本件不動産以外の不動産を昭和二十七年十一月十一日物納しているにかかわらずそれより一年近く経て前示公正証書が作成されたこと、

(ニ)  原告が再調査の請求をしたので係官が二度に亘つて呼出したに拘らず出頭しなかつたこと等

より見て右公正証書は作為に出たものである。

仮に原告主張の如き代償契約がなされたとするも寺嶋等代襲相続人の相続の放棄後一年半も経てからされているから右寺嶋等に対しては遺産分割の方法としてなされた給付でなく別個の契約によつてなされたものでありもとより右給付額は本件相続による課税価格より控除すべきでない。又飯田すず及び飯田寿郎は協議によつて既に他の不動産を遺産分割されているから同人等は原告主張の不動産については相続分はあり得ないので原告が同人等に前示金銭給付を約したとするもそれは遺産分割の方法としての給付でなく別個の契約によるものであり、之又原告の右課税価格より控除すべきものでない。従つて被告税務署長のなした右更正決定及び原告の再調査請求を棄却した処分並びに右処分を容認して審査請求を棄却した被告名古屋国税局長の処分には何等違法な点は存在しないから原告の本訴請求は失当であると述べ、

立証として乙第一乃至第七号証第八号証の一乃至十三第九乃至第十三号証を提出し証人寺嶋辰雄、後藤鉦一郎、棚橋信太郎の各訊問を求め甲第一号証の成立を認めた。

理由

飯田辰次郎が昭和二十六年十二月三十日死亡し原告を始め訴外飯田すず、飯田寿郎、寺嶋辰雄、寺嶋明子、寺嶋洋明及び寺嶋芳子の七名が共同相続人(寺嶋等四名は代襲相続人)となり右代襲相続人四名が昭和二十七年三月十七日名古屋家庭裁判所に右相続放棄の申述をなした(同年四月四日受理)こと(尤も原告は右相続放棄は真実に副わないものであると主張する)、原告、飯田すず、飯田寿郎の共同相続人間に昭和二十七年五月五日協議上被告等主張の如き遺産分割がなされたことになつていること、原告がその父辰次郎死亡による相続人として昭和二十七年四月十八日被告西税務署長に対し昭和二十六年分相続税概算申告書―税額金二十四万二千三百七十円―を提出しその後原告が右申告の税額に不足額があるとて昭和二十七年十月十四日修正概算申告書―税額金二十六万百二十円―を提出したこと、被告西税務署長が原告に対し別紙目録記載の不動産の価格全部を課税価格とし昭和二十八年十二月十八日相続税の更正決定をしたこと及び右決定に対し原告は再調査の請求をしたところ同被告は之を棄却したので原告は更に昭和二十九年三月二日審査請求をしたところ被告名古屋国税局長は同年六月二十九日名局直資一―二三六を以つて審査の請求を棄却する旨の決定をなし原告は同決定書を翌三十日受領したことは当事者間に争がない。しかるところ原告は被告等主張の右相続放棄及び遺産分割は原告外六名の共同相続人が遺産分割の方法として相続財産の大部分を原告に取得させる便宜上したものであり、いずれも真実に副わないものであつて真実の遺産分割は原告外六名の共同相続人が遺産分割につき協議の結果前示不動産については原告が全部之が所有権を取得するがその代償として原告は他の共同相続人に対し夫々その相続分に応ずる価格の金員を支払うこととし原告主張の如き金員の支払を定めたものであると主張するから本件更正決定の適否につき案ずるに成立に争ない乙第一乃至第七号証、同第八号証の一乃至十三、同第九乃至第十三号証に証人棚橋信太郎、同後藤鉦一郎の各証言を綜合すれば、飯田辰次郎の遺産の不動産につきその共同相続人たる原告、飯田すず及び飯田寿郎間に被告等主張の如き協議上の遺産分割が行われて原告が別紙目録記載の不動産を何等の負担なく取得することになつたことが認められる。

もつとも成立に争いない甲第一号証には別紙目録記載の不動産につき原告の主張に符合する協議上の遺産分割がなされた旨の記載があるが右甲第一号証の公正証書は昭和二十八年八月二十八日に至つて作成せられていて之より先、前示の如く代襲相続人等の相続放棄の申述がなされており又前示乙号各証に依れば昭和二十七年五月五日に前示認定の如き遺産分割の協議書が作成せられていて昭和二十八年三月十一日、同年八月二十二日に西税務署に提出された原告申告の富裕税申告書及び同修正申告書には右協議書中に原告の取得分として掲げられている不動産が掲記されているに拘らず右公正証書に記載するが如き負担分の債務は全然掲記されていないから右甲第一号証は措信できずなお右寺嶋等四人の代襲相続人の相続放棄は如何なる意図、如何なる方便に出たものであると将又真意に出たものでないとするもそれが為無効となるものでない。更に又証人林鍬三郎、同山崎良三、同寺嶋久蔵、同飯田寿郎は原告の主張に副う証言をしているが、いずれも前示乙号各証及び証人棚橋信太郎、同後藤鉦一郎の各証言に対比し措信できず、その他前示認定をくつがえして原告主張の如き遺産分割を認むべき証拠がない。

然らば原告が辰次郎の死亡に因り別紙目録記載の不動産を何等の負担なく相続したものとしてなされた被告名古屋西税務署長の本件相続税の更正決定は適法であり従つて又被告名古屋国税局の本件審査決定も適法であるから右課税処分を不当として之等決定の取消を求める原告の本訴各請求は理由なきものとして之を棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判官 西川力一)

目録

名古屋市中村区則武町一丁目百一番

一、宅地 百十二坪四合八勺

同市同区同町一丁目二十七番

一、宅地 百八十七坪六合八勺

同市同区亀島町四丁目十六番の一

一、宅地 百四十一坪一合二勺

同市同区同町四丁目十五番

一、宅地 二百七十坪六合九勺

同市同区則武町五丁目七十三番

一、宅地 六十三坪

同所同番

一、宅地 二十六坪二合七勺

同市同区同町五丁目七十四番

一、宅地 百四十一坪四合三勺

同所同番

一、宅地 七十三坪三合三勺

同市同区則武町五丁目七十四番所在

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  二十八坪

外二階 二十坪

同所同番所在

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  二十八坪

外二階 二十坪

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